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【知り隊!会社訪問】インタビュー
ロート製薬株式会社──河崎 保徳さん・柴田 春奈さん

ロート製薬株式会社

人事総務部 部長 河崎 保徳さん
広報・CSV推進部 柴田 春奈さん

社員一人ひとりが誇りを持って、健康で幸せな暮らしに貢献

6月10日に記念日「ロートの日」を迎えたロート製薬株式会社。「V・ロート」や「パンシロン」といった商品に、お世話になったことがある人も多いのでは?
ロートといえば目薬や胃腸薬がイメージされがちですが、その事業領域は多彩で、近年はCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)活動でも注目を集めています。同社の歴史や事業内容、CSVをはじめとする各種取り組みについて、人事総務部の河崎保徳さんと広報・CSV推進部の柴田春奈さんにお話を伺いました。

ロート製薬が目指す「薬に頼らない」健康とは?

ロート製薬の創業は1899年。創業者の名を冠した「信天堂 山田安民薬房」としてスタートしました。

柴田:創業時は胃腸薬の「胃活」を販売し、その10年後に点眼薬「ロート目薬」を発売しました。ロート目薬は処方した井上豊太郎博士の恩師、ロートムンド博士の名前をいただいており、のちに当社の社名にもなりました。

1949年に現在の社名となり、1962年に「パンシロン」、1964年には「V・ロート」という今日まで続く歴史的な製品を発売。両製品は胃腸薬、目薬の代名詞となりましたが、70年代半ばには新しい市場を開拓します。

柴田:1975年に「メンソレータム」の商標専用使用権を取得し、外皮用剤分野に進出しました。これを契機にスキンケア分野の研究を推進し、2001年の「Obagi(オバジ)」、2004年の「肌研(ハダラボ)」といった製品が生まれたんです。

製薬会社として機能や効果にこだわったスキンケア分野の製品は、同社の売り上げの6割以上を占めるまでに成長。国内市場シェア約40%を誇るアイケア分野や歴史ある内服関連分野の存在に安穏とせず、新たな道を拓いたチャレンジ精神は、いまも変わらず発揮されています。

柴田:2019年には創業120周年を迎え、2030年のありたい姿を示す経営ビジョン「Connect for Well-being」を制定しました。あわせて「OTC医薬品(一般用医薬品)」「スキンケア」「機能性食品」「医療用眼科用薬」「再生医療」「開発製造受託(CDMO)」という6つの重点事業領域を定めました。

経営ビジョンにあるWell-beingとは、人々が心身ともに、社会的にも健康で、幸せを感じながら毎日の生活を送ることができる状態を指します。医薬品やスキンケアに限らない多様な事業をつなぐ(Connect)ことで、一人ひとりがWell-beingを実感できるように…という想いが経営ビジョンに込められているのです。たとえば再生医療事業では、スキンケア商品の研究開発で得た「細胞を扱う技術」や、目薬の量産に欠かせない「無菌製剤技術」などを活かし、薬をはじめ従来のアプローチでは難しかった病気の治療などに取り組んでいます。

アイケア・スキンケア用の各種製品や内服薬を手がけるほか、妊娠検査薬も他社に先駆けて開発。

河崎:薬は偉大です。しかし、ロート製薬では薬を必要としない身体づくりも大切だと考えています。健康な身体をつくる源として、私たちは「食」に着眼し、アグリ事業やレストラン事業など食ビジネスにも参入しています。

アグリ事業では、沖縄県の石垣島で現地の生産法人の協力を得て、生産から加工、流通、販売までを一貫して担う「第6次産業」にも挑戦。世界的にも珍しい「有機パイナップル」など、沖縄県産の果物を使った多彩な製品を展開しています。

河崎:石垣島では畜産にも取り組んでいます。パイナップルをジュースにしたときの搾りかすで飼料を開発し、それを豚に与えたところ、肉の旨味と甘味が強くなりました。また、その豚からパイナップルの畑に撒く肥料を得るなど、循環型農業も実現しました。このように、私たちは「健康とはなにか」「どう生きるべきか」ということを日々考えながら、さまざまな事業を展開しています。

東日本大震災での支援活動が教えてくれたこと

近年、生きることや働くことの本質を見つめ直すような取り組みを推進しているロート製薬。そのきっかけとして、河崎さんは「東日本大震災での支援活動」を挙げました。

河崎:ロート製薬は大阪に本社があり、1995年の阪神・淡路大震災を経験した社員が数多く在籍しています。東日本大震災の一報を聞いたときに、当時を思い出した社員は少なくないでしょう。

阪神・淡路大震災では、被災企業という立場にありながら懸命に支援活動をおこないました。その経験をもとに、同社では東日本大震災の発生まもない3月30日に「復興支援室」を立ち上げました。

河崎:現地で復興に携わるメンバーが募られると、わずか2日ほどで約60人もの社員が手を挙げました。そのうち6人が選ばれて、私も復興支援室長として現地で3年間活動しました。

同社には、阪神・淡路大震災の支援活動において、「やり残したことがあった」といいます。それは、未来を担う子どもたちへの支援が不足していたということでした。

河崎:建物や道路を元通りにするだけでは、本当の意味での復興とはいえません。街を元気にするのは、夢を持った子どもたちです。子どもたちが将来、その土地で幸せに暮らすことができて、はじめて復興といえるんです。

子どもたちの夢まで、津波に流されてはいけない。そんな思いから、同社では被災によって親を亡くした子どもたちを対象に大学や短大、専門学校の学費を支給する基金づくりを構想。同社の呼びかけに応じたカゴメ株式会社、カルビー株式会社も基金の立ち上げに加わり、2011年の10月に「みちのく未来基金」が設立されました。

河崎:民間企業が手を取り合って、公的な支援では対応が困難な部分を担う基金を実現したことに大きな意味がありました。2013年にはエバラ食品工業株式会社も加わり、いまは4社で運営しています。

みちのく未来基金では、「震災が発生した年に生まれた子どもが学校を卒業するまで支える」という決意のもと、基金の立ち上げから25年間という息の長い支援が想定されています。一企業の取り組みでは実現が難しく、基金という形で複数社が共同で運営し、多くの企業や団体、個人から寄付を募ることで、長期的かつ安定した支援を約束することができたのです。

河崎:こういった基金には運営企業の名を冠することが多いのですが、みちのく未来基金にはそれがありません。ハウスメイトさんにも基金に参加いただいていますが、支援企業のロゴなどをホームページに掲載するといったPRもしていないんです。それにも関わらず、本当に多くの企業や団体、個人の方々から支援をいただきました。

みちのく未来基金では、みちのく生(奨学生)やサポーターが交流できる「集い」を震災の翌年から開催。それぞれの思いを共有できる貴重な場に。

自由度の高い基金の設計も、民間だからこそ実現できたことです。みちのく未来基金は、両親、またはいずれかの親を失くした子を対象とし、申し込みはすべて受理。入学金と卒業までの授業料を年間300万円まで支給するため、どのような進学先を選んでも、基本的な学費は全額賄えることになります。河崎さんは、大学や専門学校といった進学先の違いによる総支給額の差にかかわらず、全額支給することに意義があるといいます。

河崎:夢を実現するのにかかる金額や時間は、一人ひとり異なります。それぞれの夢の大きさに対し、私たちは公平に応援したいと考えたんです。

みちのく未来基金をはじめとする支援活動を進めるなかで、同社の社員にもさまざまな変化があったそうです。

河崎:復興支援に携わった若い社員たちから、「最初は子どもたちを助けているという気持ちだったが、子どもたちから勉強させてもらっていることに気づいた」という声をよく聞きました。「自分たちは何のために仕事をしているのだろう?」と働くことの本質を探るようになった社員も少なくありません。従来の企業教育では、なかなか学べなかったことです。

河崎さん自身、復興支援活動に携わるなかで、「ロート製薬は社会のために、もっとできることがある」と考えるようになったそうです。東北での赴任を終えた河崎さんは、CSV(共有価値の創造)の推進に取り組みました。CSVとは、企業の活動そのものを、社会的価値に結びつける概念です。

健康な社会づくりに貢献できる「健康人財」を育成するために、全社員が参加する運動会をおこなうなど、健康経営を推進。

河崎:私たちのCSVには「本業で社会貢献をする」という思いが込められています。それまで取り組んでいたCSRには、「利益のなかでの社会貢献」という印象がありました。しかし、それでは利益をあげられないと、社会への貢献もできないことになります。売り上げや利益に左右されず、自分たちの事業を通して社会貢献することが大切なんです。

利益をあげるためではなく、社会の役に立つために事業をおこなう。CSVが示す理念は、働く人たちが抱く「何のために仕事をするのか?」という問いに対する一つの解にもなっています。

河崎:昭和の右肩上がりの時代はとうに終わりました。人口も減少に転じ、どれだけ営業担当者が頑張っても、かつてのように売り上げがあがらない商品もあるでしょう。しかし、たとえ売り上げが振るわなくても、その商品が人の役に立っていることには違いありません。「利益を得るために目薬を売る」のではなく、良い目薬を提供することで社会に貢献するという原点に立ち返れば、私たちはいつでも誇りを持って働くことができます。

河崎さんは、「売り上げのために働くなんて、Well-beingではありませんよね」と笑います。東北での復興支援活動、そしてCSVの取り組みは、2030年に向けた経営ビジョン「Connect for Well-being」にもつながっているのです。人々の健康、社会の健康を、誇りを持って実現していく同社の歩みは、これからも働く人々に多くの気づきを与えてくれそうです。


河崎 保徳(かわさき・やすのり)

ロート製薬株式会社 人事総務部 部長
1986年、ロート製薬に入社。商品企画部長、営業部長、営業企画部長を経て、2011年から3年間、東日本大震災の復興支援室長を務める。東北・仙台に赴任し、みちのく未来基金の創設に尽力。2014年に広報・CSV推進部を立ち上げる。2020年より現職。

柴田 春奈(しばた・はるな)

ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部
2013年、ロート製薬に入社。広報活動とCSVの推進に取り組む。みちのく未来基金には、事務局として2年間参加。現在は、ロート製薬独自の副業・兼業制度「社外チャレンジワーク」を活用し、NPOのPR活動などにも従事している。

 
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