【名作ゆかりの温泉宿】 LIFE+1

2021年11月24日

~『弱虫ペダル』の遠征宿は心遣いに満ちたお宿でした~
熊本県 内牧(うちのまき)温泉
蘇山郷(そざんきょう)

北に阿蘇外輪山を、南に阿蘇五岳を望む内牧温泉。ここは広大なカルデラの中にある阿蘇最大の温泉地です。なかでも自転車乗りに知られているのが「蘇山郷」。『劇場版 弱虫ペダル』で総北高校チームが泊まった老舗温泉宿を訪ねてきました。

作品でも映し出された阿蘇外輪山からの雲海。この雲の下に内牧温泉があります。©熊本県観光連盟

マンガやテレビでも人気の『弱虫ペダル』は、千葉県立総北高校自転車競技部の活躍を描いた本格的なロードレース・ストーリー。初めて映画化されたときの舞台は熊本。そのエンド・クレジットには、「蘇山郷 with コルナゴ部長※」と記されている。「コルナゴ」はイタリアの高級自転車のブランド名。では部長は…?

「コルナゴ部長は、以前、ウチに勤めていた方です。愛車のコルナゴで各地の大会に参加したり、阿蘇の自転車情報を発信されていて、自転車乗りの間では当時から名前が知られていました。この方がいたから、蘇山郷が『弱虫ペダル』の遠征宿になったと聞いています」と、蘇山郷のフロントマン・福留さんが話してくれた。

映画そのままの蘇山郷の玄関口。阿蘇郵便局のすぐ前。平らな市街地に開けた温泉地。

玄関を入った先に広がる庭の眺め。1日目のレースが終わり落ち込む坂道くんが座っていた場所にくまモンが。

映画に描かれた蘇山郷は、作品そのままのたたずまい。白い暖簾がかかる玄関や、大浴場のタイル、ボディソープも同じものだ。DVD特典である「旅のしおり」には、選手や監督、マネージャーの部屋割りまで記されている。

男性用大浴場。泉温45℃で湯量は毎分321リットル。加水加温なしですべての浴槽に源泉かけ流しでお湯を注ぐことができる理想的な湯。

地元醸造会社の酒樽を湯船にした貸し切り風呂。

昭和7年、与謝野鉄幹・晶子が宿泊した「杉の間」。作品ではレース前の打ち合わせ場所として描かれた。

主人公の小野田坂道くんら8名の選手が泊まったのは「蘇峰(そぼう)」の間。現在は改装されて、ベッドとソファが入り、定員は6名までだが、『弱虫ペダル』が上映された当時は8名まで泊まれる客室だった。監督やマネージャーが泊まった「明星」「若葉」は眺めのいい3階にあり、競技コースでもあった外輪山を見渡せる。作品の中とはいえ、部屋割りも現実に即してちゃんと考えられている。

改装された「蘇峰」の間。部屋指定で泊まるゲストもいるのだとか。1泊2食2万2150円~(2名1室の場合の1名料金)。

上映から6年経ったいまでも、蘇山郷にはファンが泊まりにくる。そんなときには、食事場所や玄関先にちょっとしたサプライズを用意。細やかな心遣いに気持ちがほっこりしてくる。

玄関や客室などにこんなサプライズが!

もてなしの心は、館内のしつらえや、お料理一品一品にも感じられた。日本旅館のムードに合うよう、山野草を育てて各所に飾っている。夕食は月替わりで、水前寺菜や辛子蓮根、農園直送のサラダに奥阿蘇鱒など、地元の安心な食材を丁寧に調理、タイミング良く運んでくれる。早朝、雲海を見にいく人たちのことを考えてか、チェックアウトが11時なのもありがたい。「阿蘇の魅力をじっくりと味わって欲しい」という思いが伝わってくるお宿だ。

地元食材をふんだんにいただける夕食はレストランまたは個室で。草原で放牧されている阿蘇のあか牛は肉質がしっかりとしていて旨みが濃い。

映画が公開されたのは2015年8月。その8カ月後、熊本は大きな地震に見舞われた。坂道くんと巻島さんが出会った感動の場所、「ラピュタの道」も崩壊し、いまも立ち入り禁止となっている。蘇山郷でも温泉が止まり、新しく源泉を掘削、3カ月後、地下150mからお湯が自噴し営業を再開した。長く一部区間が不通となっていたJR豊肥本線は2020年8月、国道57号も2020年10月に全線開通。阿蘇の大動脈が復活した。

蘇山郷から徒歩5分の黒川沿いからは阿蘇五岳が一望できる。2021年10月の噴火の影響はなく温泉街は通常通り。サイクリングをしている人の姿も。

フロントマンの福留さんも自転車乗り。足湯や自転車ラックも設置されていて自転車ウェルカムなお宿です。

水害や地震や噴火と、多くの自然災害を被りながらも、お宿の皆さんは常に前を向いて進んでいる。それは、急坂を上っていく自転車乗りの姿とも重なって見える。坂の先に待っているのは何だろう…?雄大な阿蘇の自然の中に身を置くと、そんな思いがこみあげてきて、自転車に乗ってみたくなってきた。

 

※「コルナゴ部長」は、蘇山郷を退職したあと、「道の駅 阿蘇」サイクルアドバイザーに就任。阿蘇エリアの自転車ツーリズムの魅力を伝えています。


蘇山郷

熊本県阿蘇市内牧145
TEL.0967-32-0515
【アクセス】
JR豊肥本線阿蘇駅より内牧方面行きバスで15分の阿蘇市商工会前バス停下車、徒歩2分
九州自動車道熊本ICより国道57号、県道149号経由でICより44km
https://sozankyo.com

【泉質データ】
ひすい色のにごりがあり、鉄のにおいがぷんとするナトリウム・マグネシウム・カルシウムー硫酸塩泉。肌へのなじみが良く、鉄分のおかげか入浴後、肌色がクリアになるような感覚。ひと晩中、入浴できる男女別大浴場のほか貸切りできる半露天風呂が2カ所あり、すべての浴槽が源泉100%かけ流し。
【宿泊データ】
和洋室や10畳和室、8畳和室など客室タイプはさまざま。温泉露天風呂付き客室は2室、小野田坂道くんたちが泊まった「蘇峰」の間には小さな温泉内風呂が付いている。1泊2食1万6650円~。
【日帰り入浴】
13時~15時。男女別大浴場は700円。貸切り風呂や貸切り露天は50分2000円。宿泊者の状況により不定休。


『劇場版 弱虫ペダル』

2015年8月公開のアニメ映画。主人公の小野田坂道くんが所属する千葉県立総北高校の自転車競技部が、熊本を舞台に新たなレースに挑む。九州にゆかりの深い、原作漫画家の渡辺航によるオリジナルストーリー。熊本の美しい風景、なかでも阿蘇外輪山の雄大な景色の中で繰り広げられる熱い自転車レースに心が震える。現在はdTVやAmazonプライム、U-NEXTなどで視聴できる。


温泉ライター 西村理恵

雑誌やテレビなどで温泉の魅力を発信。入湯数は国内外で1000湯以上。日本温泉地域学会理事、(公財)中央温泉研究所理事。「ねこ温泉 いぬ温泉」プロジェクト主宰。
https://catdogonsen.com

 

※価格には、消費税、入湯税が含まれています。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、お出かけの際は各自治体などの最新情報をご確認ください。

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