【名作ゆかりの温泉宿】～『鬼滅の刃』の無限城？ファンのクチコミで聖地の一つに！～福島県芦ノ牧温泉大川荘

『鬼滅の刃立志編』の最終巻に描かれている通称“パワハラ会議”は、ファンに人気のストーリーです。舞台は鬼の総本山である「無限城」。この城に似ていると話題になっている会津・芦ノ牧の温泉宿を訪ねてきました。

『鬼滅の刃』の時代設定は大正時代。そのため作品には木造家屋や遊郭、キモノなど、和のテイストが散りばめられている。鬼のラスボス・鬼舞辻󠄀無惨（きぶつじむざん）の根城である「無限城」も、木組みの柱と階段が張り巡らされたおどろおどろしい和の建造物だ。

そんな無限城に似ていると話題になっているのが、芦ノ牧温泉にある大川荘。アニメ放映の半年後、2020年3月ごろから、SNSなどで情報が拡散され、新聞やテレビなどでも取り上げられるようになった。公式に舞台であるとは一切、認められていないが、鬼滅ファンにとっては「聖地」とも言える場所になっている。

渓流・大川のすぐ縁に立つ大川荘は芦ノ牧でも指折りの大型旅館だ。玄関を入ると吹き抜けの高い天井。奥へ進むと、奈落へと向かう道のように下向きの階段が設けられ、周囲には木組みの建具や回廊が配置されている。さらに下、一番底には大川の支流かと見間違うように水が流れている。

午前中は男女別露天として入浴できる空中露天風呂。長くて寒い階段を上り下りする分、すばらしい眺めが眼前に。

午後4時。水音を切り裂くように三味線の演奏がはじまる。と、多くのゲストがロビーに集まり、「鳴女（なきめ）みたい」「似てる…」と一斉にカメラが向けられた。鬼滅効果なのか、若い人の一人旅や子ども連れの家族が多い。「2020年の夏はほとんどが鬼滅ファンの方でした。今はだいたい３割ぐらいでしょうか」とスタッフの山崎和さんが話してくれた。山崎さんもファンのお一人。中でも「猪突猛進の伊之助が推し」なのだそうだ。

三味線の演奏が終わる午後6時以降、日が陰ってくると、ますます鬼滅ムードが高まってくる。この時間帯になると、階段を下って「浮き舞台」に入り、写真を撮ることができる。一人旅の人には「撮りましょうか？」とスタッフさんが気軽に声をかけてくれる。とあるご年配のスタッフさんは、「孫も鬼滅ファンですし、お客様とも会話が弾みますので、アニメや映画を見るようになりました。炭治郎と禰豆子はもちろんですが、『無限列車編』の映画が上映されていたころは、煉獄さんファンの方も多かったです」と話してくれた。鬼滅を通じて世代を越えたゲストとのふれあいが生まれている。

「無限城」に似ているといわれる「浮き舞台」。16時～18時三味線の演奏が行われる。日本が元気だった平成元年に建築。贅沢なスペースだ。

取材時に出会った鬼滅ファンのゲストは、持参した胡蝶しのぶの衣装を身にまとい記念撮影。「楽しい！今度は友達と一緒に来たいです」

館内には鬼滅にちなんだものはない。唯一、売店に鬼滅靴下と布小物が。布小物は地元老人会の女性たちの手作り品。

大川荘の名前は、今もクチコミで広がり続けている。ロビーは確かに無限城に似ている。でもロビーの魅力だけだと、ここまでは広まらなかったのではないだろうか。堂々とした大きな建物や、擬宝珠風の飾りが付いた重厚な手すり、端正な客室のしつらえ、そして対岸にそびえ立つ絶壁の厳しさや空中露天風呂へと続く123段の寒い階段…。鬼の総本山にふさわしい格式や空間に加えて、周囲に広がるダイナミックで荒々しい自然の力強さが、作品のムードとマッチしている。そこに、素朴で親切な会津の人たちのもてなしが合わさって鬼滅ファンの心をつかんでいるように感じられた。

広々とした造りの「宵待亭」標準客室。冬は窓辺に掘りごたつが登場する。

四季ごとに替わる標準夕食は全8品。手打ちの8割蕎麦や、肉か魚かを選べるメイン料理などのほか、鍋やお刺身、馬肉の握り、デザート盛り合わせなどお腹いっぱいに。

利き酒師が厳選した会津の地酒も各種そろう。

ところで、芦ノ牧温泉は、1200年前、一人の高僧によって発見されたと伝わる。はじまりの鬼・鬼舞辻󠄀無惨も同じく平安時代の生まれ。そして作品中で唯一、温泉が描かれているのが“恋柱”である甘露寺蜜璃の入浴シーン。実は温泉業界には、“温泉界の宝”とも言われる甘露寺姓の研究者がおられる。偶然の一致だとは思うが、もしかして原作者は温泉にも通じているのだろうか…？　などと想像してみるのも楽しい。

大川荘

福島県会津若松市大戸町大字芦ノ牧字下平984
TEL.0242-92-2111（電話受付時間8:00～20:00）＊平日にお休みあり
【アクセス】
・会津鉄道芦ノ牧温泉駅またはJR会津若松駅より無料送迎あり（事前予約制・会津若松便は1日1便）
・磐越自動車道会津若松ICより国道118号経由で約22km。または東北新幹線新白河駅より国道289号経由で約53km
https://www.ookawaso.co.jp

【泉質データ】
浴室は2カ所。段々になった「たな田」露天風呂付き大浴場（男女別）と、13時～21時の間、一組45分間、別途3300円で貸し切りできる空中露天風呂（翌朝は男女別浴室として無料利用できる）がある。泉質はカルシウム・ナトリウムー硫酸塩・塩化物泉。空中露天はかけ流しで上品な温泉香が感じられる。
【客室データ】
全110室の大型旅館。5室をのぞき全て渓谷に面しており、居ながらにして渓谷美を楽しめる。洋室やバリアフリールーム、2間続きや掘りごたつのある部屋など客室タイプは多彩。グレードアップした食事や早割りなどの宿泊プランも。1泊2食1万6650円～（2名1室の1名料金）。
【日帰りデータ】
入浴のみはフェイスタオル付き1500円で11時～14時受け付け。土日祝日のみ要予約で昼食付きプラン5650円～あり。空中露天の貸し切りは別途有料3300円で13時～と14時～のみ受け付け。※第2・4水曜は日帰り入浴はお休み。

『鬼滅の刃』

『週刊少年ジャンプ』（集英社）に2016年～2020年連載された、吾峠呼世晴（ごとうげこよはる）による少年マンガ。主人公・竈門炭治郎が、鬼となった妹・禰豆子を人間に戻すため懸命に鬼と戦う物語。単行本は2020年12月に最終23巻が発売、累計1億5000万部以上を売り上げている。2019年4月～9月には『立志編』がアニメ化、2020年10月には劇場版『無限列車編』が上映。2021年12月よりフジテレビ系列などにて『遊郭編』が放映されている。