くらしの情報箱
2024.08.21
「避難勧告」はもう存在しない!そろそろアップデートしたい防災知識を気象予報士・防災士が解説
暑さが続く中、台風や秋雨の大雨に影響を受けやすいシーズンを迎えています。
大雨と言えば「避難勧告」という言葉に聞き覚えのある人は多いと思いますが、実は「避難勧告」がすでに存在しないことをご存じでしょうか。気象や防災に関する情報や技術は日々進歩していて、ほかにも以前に聞いたことがある情報をそのまま使い続けていると、時代に合っていないということも…。
9月1日は防災の日。この機会に、いざというときに役立つ防災知識をアップデートしましょう!
「避難勧告」は廃止…では、いつ避難すべき?
「避難勧告」は、1961年に災害対策基本法が誕生した当時からあった歴史の長い避難情報でしたが、2021年5月に廃止されました。
というのも、「避難勧告」にそっくりな「避難指示」という情報もあるために、どちらがどういう意味なのかわかりづらく、避難のタイミングを迷う人が多かったためです。
現在ある避難の情報は、以下の3つです。
▼高齢者等避難…「高齢者や障がいのある人、乳幼児やペットと暮らす人など避難に時間がかかる人は避難を開始し、それ以外の人も避難のための準備を始めてください」
▼避難指示…「全員避難してください」
▼緊急案件確保…「すでに重大な災害が起きているおそれがあるため、少しでも身の安全を守るための行動を取ってください」
つまり、多くの人が避難をする目安は「避難指示」ということになります。
「雨がたくさん降ったら大雨警報」ではない!
警報が出る理由が変わった
降った雨の量が一定値より多くなったら大雨注意報が出て、さらに多くなったら大雨警報が出る…、そんなイメージを持っている人もいるかもしれません。もちろん、かつて実際にそういう基準が使われていた時代もありましたが、今は違います。
まず、注意報や警報の基準は降水量でありません。なぜなら、雨が100ミリ降ったら災害が起きる場所もあれば、200ミリ降っても災害が起きない場所もあるからです。
そのため現在では、浸水や土砂災害といった災害がどのくらい切迫しているかという「危険度」を基準にして注意報や警報、そして土砂災害警戒情報などが発表されています。
ちなみに、この「危険度」は気象庁のホームページの「キキクル」という項目で公開され、一般の人もリアルタイムで見ることができます(インターネットで単純に「キキクル」を検索するだけですぐに出てきます)。
また現在では、実際に基準に達する前から警報などが発表されることもあります。予報技術が進歩したため、「これから数時間以内に基準に達しそう」とわかった時点で発表することも。
そのため、大雨警報が出た時点で雨がほとんど降っていないパターンも出てくるのですが、これから雨が激しくなって危険度が高まることを意味しているため、油断できません。
「避難=避難所へ行く」ではない!
「避難」とは、「災害から身を守るために行動をすること」です。そう聞くと、「やっぱり避難所へ行くことでは?」と思われそうですが、「避難」というのは以下のような行動だと定義されています。
(1)指定された避難所や避難場所(※)へ行くこと
(2)近所のより安全な場所へ行くこと
(3)自分のいる建物の中でより安全な場所へ移動すること
※「避難所」は自宅で安全に暮らせるようになるまで滞在する施設、「避難場所」はひとまず安全確保をする場所で、公園など屋根のない場所を含む。大半の学校や公民館は避難所と避難場所を兼ねている。
(2)の「近所のより安全な場所」には、親戚や知人の家、ホテルなどが含まれます。(3)はたとえば建物内のより高い階や、川や崖から離れた部屋が「より安全な場所」となります。ただし、自分のいる建物自体が川や崖にかなり近い場合はどの部屋でも危険なため、早めに(1)か(2)の行動が必要です。
「能動的被災者」にならないために
日本では全世帯数の8割近くに当たる人が、大雨災害の危険性が比較的小さい場所に住んでいます。
にもかかわらず豪雨のたびに多くの被害者が出るということは、かなり多くの人が、家から出て被災しているということになります。こういったケースを「能動的被災者」と呼ぶ専門家もいます。
よくニュースで「川の様子を見に行って被災」といった報道を聞いて「自分はそんなことしない」と思っていても、実際には「このくらい大丈夫」と思って買い物に出た途中で被災したり、自宅と避難所のどちらがより安全かわからずにとりあえず避難所に向かう途中で被災したりする人がいるのです。
自宅などの危険性を調べるためには、「〇〇市 ハザードマップ」などと自治体名を入れて検索してもいいですし、「重ねるハザードマップ」と検索すれば自治体関係なく全国のリスクをまるでスマホの地図アプリと同じように見ることができます。
自治体ごとのハザードマップはPDFファイルであることが多いので、スマホで見る場合は「重ねるハザードマップ」がおすすめです。
職場にいるときに大雨に…どうする?
大雨によって避難が必要になったそのとき、誰もが自宅にいるとは限りません。
もし職場にいる時間帯に避難指示が出たら、その場にとどまるべきか急いで家に帰るべきか悩みますよね。
そのため、自宅と職場のどちらの方が危険な場所なのか、前述のハザードマップであらかじめ調べておきましょう。もちろん自宅と学校についても同じことが言えますし、これから秋の行楽シーズンを迎えますが旅行先についても同様に確認が必要です。
また、たとえ自宅の方がより安全だと思っても、職場から自宅への帰り道が危険な場合も。
実は、土砂災害の警戒区域というのは、住家がある場所しか自治体によって指定されません。つまり、たとえ両脇に切り立った崖があって明らかに大雨で崩れやすそうな道でも、まわりに住家がなければハザードマップで色が塗られていないため、自分で判断する必要があるのです。
もともと雨が激しくなってきたあとに移動すること自体が危険を伴うため、職場が土砂災害の警戒区域内にある場合以外の移動は、慎重に考えるようにしてください。
職場が災害の危険性が低い場所に建っているのであれば、安心して職場にとどまることができるよう、備蓄品を定期的に確認しておくのがおすすめです。
植松 愛実 | Megumi Uematsu
気象予報士、防災士。
NHK・民放各局の気象キャスターを歴任し、各地で親子向けお天気イベントや小中学校での環境出前授業などを担当するほか、天気の面白さや身近な防災について発信。著書『天気予報活用バンドブック~四季から読み解く気象災害』(丸善出版)。野菜ソムリエ、食育インストラクター、薬膳マイスターなど保有資格多数。
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