【名作ゆかりの温泉宿】～国民的俳優、西田敏行が「釣りバカ」ハマちゃんになりきった宿～愛知県 伊良湖温泉「角上楼」「伊良湖リゾート&コンベンションホテル」

俳優・西田敏行さんは、22年もの長い間、映画『釣りバカ日誌』でハマちゃんを演じました。この作品のシリーズ化が決まったのが、1989（平成元）年12月27日に公開された『釣りバカ日誌2』。「旅」「マドンナ」「ハマちゃんの歌や踊り」という、その後に続く作品シリーズの魅力が詰まった一作です。舞台となった愛知県渥美半島を訪ねてきました。

東海道新幹線豊橋駅より西南西へ約45キロ。三河湾や伊勢湾の東側入り口に、堤防のように突き出した渥美半島がある。その突端近くに、2022年、新しい温泉「伊良湖温泉」が誕生した。釣りバカのロケ宿、角上楼（ロケ当時は角上旅館）や伊良湖リゾート&コンベンションホテル（同・伊良湖ガーデンホテル）にも、この温泉が注がれている。

まずは角上楼へ。渥美半島の北側、福江集落にあるお宿で、来年創業100年を迎える。古民家をステキに改装した、界隈きっての人気宿だが、釣りバカが撮影された頃は、「年間8組しか宿泊客がいなかったこともあった」と、3代目の上村純士さんが話してくれた。「ひなびた宿で撮影がしやすかったので、ロケ宿に選んでいただいたのではないかなと考えています」。

作品では、激務から逃れ、行方をくらました建築会社社長のスーさん（三國連太郎）が泊まった宿として描かれている。スーさんを探しに来たハマちゃんと出会い、一緒に宴会をしたのが「萩」の間。半裸になって踊り歌うハマちゃんのエンターティナーぶりが映し出され、バブル期の明るい気分が感じられる。

「萩」の間は、当時は中宴会場だったそうだが、現在は露天風呂のある人気の客室になっている。中庭を見下ろす2階に位置し、庭をはさんで対面するように食事処がある。窓辺にすわると、廊下を歩くゲストやテラスで一服する人、中庭にやって来る小鳥たちの姿が見え、時たま看板ねこ・ミュウちゃんの鳴き声も聞こえてくる。宿の真ん中にいるようで、守られているような居心地の良さがある。

上村さんによると、西田敏行さんが2泊したのは、奥まったところにある「松」の間。8畳ひと間の落ち着いた和室で、檜の内風呂が付いている。宴会芸を披露したハマちゃんが、西田敏行へとクールダウンするにはピッタリの隠し部屋風な客室だ。

角上楼は、木造本館のほか、メゾネットタイプの別館、眺めのいい新館の3棟あり全10室。全客室にそれぞれ異なるステキなお風呂が付いており、天竜川の伏流水が注がれている。温泉浴室があるのは新館。本館からは小さな庭を横切り、階段をのぼって行く。比較的こじんまりとした浴室だが、各客室に立派なお風呂があるからか、3度入ったけれども誰とも一緒にならなかった。釣りバカのロケがあった頃は、本館のみで小さなお風呂が1カ所だけ。ハマちゃんやスーさんが今、角上楼を訪れたとしたら、その変貌ぶりに驚くに違いない。

角上楼は食事のおいしいことでも知られている。通常料理は月替わり。今回いただいた中では、地元キャベツがたっぷりと入ったポトフ風の鍋が印象に残った。だし汁がおいしいのはホント嬉しい。また食べに行きたい一品だ。また10月〜3月の天然とらふぐ料理も定評があり、全国から食通が訪れる。

角上楼から車で15分ほど。メインのロケ宿となったのが伊良湖リゾート&コンベンションホテル。11階建ての白亜のホテルで、伊良湖岬近くの海岸すぐに位置している。狭心症で倒れてしまったスーさんを、謎の美女、弥生（原田美枝子）が介抱した1102号室は特別なスイートルームで、現在宿泊はとっていない。そのためか室内は当時とあまり変わっていない様子だ。

こちらのホテルは元々、名古屋鉄道系列の宿として平成元年に開業した。釣りバカの舞台になったのも同じ年。シンボル的なホテルがオープンしたため、映画の誘致を行ったのではないかと地元の人たちが話していた。

1102号室。スーさんと弥生の色っぽいシーンが撮影された寝室など今回は特別に見学させてもらいました。壁の絵画もロケ時と同じ。

ホテル周囲を見渡すと、スーさんが釣りをしていた堤防や、定期船が到着する船着き場、魚市場などロケ地が点在している。映画を見てから行くと、「あのシーンはこの場所だったんだ！」と謎解きをしているように楽しめる。海を望む温泉大浴場は3階にあり、日帰り入浴も受け付けている。

伊良湖が釣りバカの舞台になってから35年。平成から令和へと時代は移った。変化の早さは驚くばかりだが、時には海近くでのんびりとした時間を過ごすのも良いものだ。弥生がスーさんに語った「（昔は）世の中がずっと単純で、会う人はみんな良い人ばっかり」という台詞は、現実から離れた海の町にいると、すとんと体に入ってくる。楽しい思い出を作り、おだやかな気持ちを取り戻すのに伊良湖はピッタリの温泉地だ。

和味の宿　角上楼

愛知県田原市福江町下地38
TEL．0531-32-1155（8:30〜20:30）
https://www.kakujoro.com

【アクセス】
JR豊橋駅隣接の豊橋鉄道新豊橋駅より35分の三河田原駅下車、3日前までの要予約で送迎（片道1名500円）あり　＊豊橋駅から特別料金のレンタカーあり（前日までに連絡を）。

【泉質】
ナトリウム・カルシウムー塩化物泉。タンクローリーでお湯を運んでいる。加水加温循環あり。熱めの内湯、ぬるめの露天が男女各1あり、温度設定が安定していてゆっくりと入浴できる。

【日帰りデータ】
入浴のみはできないが、入浴（1250円）＋昼食（8800円）プランはあり。3日前まで2名〜の予約で受付け。

【宿泊データ】
2名1室の場合の1名料金1泊2食2万5150円〜。季節や客室、曜日、料理プランにより異なる。ひとり旅も受付けており50％の増し料金となる。

伊良湖リゾート&コンベンションホテル

愛知県田原市伊良湖町宮下2822-2
TEL．0531-35-1500　
https://hmihotelgroup.com/iragoresortconventionhotel/

【アクセス】
JR豊橋駅西口より無料送迎バスあり（前日18時までに要予約、2名以上で宿泊の場合のみ）。

【泉質】
ナトリウム・カルシウムー塩化物泉。タンクローリーでお湯を運んでいる。加水加温循環あり。海に面した広々とした浴室でゆったりと入浴できる。サウナもあり。

【日帰りデータ】
入浴のみは15時〜20時（退館）で1名1200円（タオル・バスタオル付き）。ティーラウンジ（12時〜18時退館）や夕食のみ（２名〜、前日までの要予約）の利用もウェルカム。

【宿泊データ】
2名1室の場合の1名料金1泊2食9650円〜（ビュッフェプランの場合）。季節や客室、曜日、料理プランにより異なる。素泊まり、朝食付き、ペットと宿泊など多彩な宿泊プランあり。

松竹映画『釣りバカ日誌2』

温泉ライター　西村理恵

雑誌やテレビなどで温泉の魅力を発信。入湯数は国内外で１０００湯以上。日本温泉地域学会常務理事、（公財）中央温泉研究所理事。「ねこ温泉 いぬ温泉」プロジェクト主宰。
https://catdogonsen.com

※価格には消費税が含まれています。（入湯税込）
※お出かけの際は各施設の公式ホームページから最新情報をご確認ください。