社宅の知識
2026.01.05
【人事・総務のための福利厚生】連載⑪社宅規程の入居者事項の点検
好評連載中の「人事・総務のための福利厚生」です。社宅に関する話題をわかりやすく解説します。私は、福利厚生専門誌「旬刊福利厚生」を発行する株式会社労務研究所の可児俊信(かにとしのぶ)です。福利厚生の事例の蓄積からたくさんお伝えします。
手伝っていただくのが、ハウスメイトパートナーズの三原さんです。
【前回の記事はコチラ】
三原
三原です。可児さん、今回もよろしくお願いします。
可児
前回に続いて社宅規程の重要な事項について点検します。規程をアップデートしておかないと、思わぬトラブルが発生するかもしれません。今回は入居者に関する事項を点検します。
三原
近年は賃料の上昇に伴い、社宅と通勤時間の関係が話題になることが増えています。 社宅には、福利厚生を目的とするものと、転勤に伴うものの二種類があります。
社宅規程を確認すると、例えば次のような入居要件が定められています。
「社命により転勤した社員で、通勤可能区域内に自宅を持たず、本規程に定める入居資格を満たし、所定の手続きを経て入居を認められた者」
特に転勤用社宅の場合は、物件探しの際に「勤務地から2km圏内」や「通勤時間30分以内」といった運用基準を設けており、こうした条件に基づく相談を受けるケースが見られます。
可児
「通勤可能区域」は通勤時間または距離で判定されますが、「(自宅からの)通勤時間が2時間以上」とする規程が多いようですが、健康上の観点から再検討が必要です。転勤してもリモート勤務できるのであれば本社に勤務したまま地方拠点に転勤できますので、「通勤可能地域」ではなく、転勤先に出勤しなくとも業務に支障がないかが判定要素となるでしょう。
三原
では、入居する同居者の範囲はどうでしょうか?「配偶者、子、本人または配偶者の親、扶養する親族」を入居できる同居人の範囲とするのが一般的でしょうか。ただし、近年では「婚約者も同居対象に含まれるのか」という質問が寄せられることもあります。
可児
基準家賃を家族数ごとに設定している規程では同居人の範囲を広げるほど事業主の社宅費用負担が重くなるうえ、同居人が多いほど何らかのトラブルまたは交渉事が増えます。
入居者のトラブル防止のために入居時に社宅入居誓約書の提出を義務付けます。一般的には、
1 社宅管理規程を遵守する
2 会社に損害を与えない
3 他の入居者に迷惑をかけない
4 立ち退きの際に原状に復する
といった漠然とした誓約内容が多いので、解釈によるトラブルが発生する懸念があります。社宅規程で具体的に記述するのが望ましいです。
三原
当社ではできるだけ入居前に内見をお願いしていますが、法人によっては内見を行わない物件も少なくありません。その場合、入居後に不満が生じることもあります。こうしたケースについては、どのように対応されているのでしょうか。
可児
転勤に不満のある者や入居予定社宅に不満のある者が、入居を意図的に遅延する懸念があります。社宅が決定してから、実際に引っ越すまでの日数や期限日を定めます。これを超えたら、「会社が認めた場合を除き、入居を取り消すことがある」と規定します。
入居予定者が入居せずにそのまま退職する懸念もあることから、「退職日までに会社が負担した家賃は入居予定者の負担とする」と規定し、入居予定者にあらかじめ通知しておくことも考えられます。賃貸借契約を締結しても入居されないと事業主が家賃のみ支払うことになってしまいますが、規定がないと請求も難しいためです。
三原
では、社宅の入居期間の上限や年数、社宅使用料についてはどのように定められているのでしょうか。
可児
8~10年の上限を定めます。上限を経過しても転居・転勤がない場合は、個人契約への切り替え、退去または社宅賃料の全額本人負担とする規程もあります。入居期間の経過につれ、段階的に社宅使用料を引き上げる規程もあります。
上限または引き上げの根拠は、転勤により発生する経済的および精神的な負担が、入居期間の経過につれ、次第に軽減するためです。
三原
社宅の適用期間の上限を「入居期間」ではなく「入居者の年齢」で区切り、所定の年齢に達した時点で退去を求める規定についてはどのようにお考えでしょうか。
可児
社宅定年です。事業主の社宅費用負担が過重にならないようにするのが目的ですが、それ以外に、「持ち家支援」にも関連します。
福利厚生施策として、「従業員に持ち家を持たせる」ために持ち家支援を掲げている事業主では、社宅を提供して従業員の住宅費軽減に努める一方、40歳または45歳を厚生社宅の入居年齢の上限としています。
三原
トラブルの多い入居者の対応については、どのような取り決めがあるのでしょうか。場合によっては退去を命じることもあるのでしょうか。
可児
転勤や社宅定年等以外の退去事由としては、通勤可能な距離での自宅の購入、事業主の了解を得ないで長期間にわたり社宅に居住していない、離婚等により同居家族がなくなった、社宅の管理上故意または重大な過失により事業主に損害を与えた、風紀・秩序を乱す言動等が考えられます。
また戸建て社宅では、他の入居者の目がないことから、民泊への転用、配偶者がネイルサロンを経営、従業員が息子夫婦を入居させ、自分たちは賃貸住宅を借りるといった例もあります。
これらが発生した際は、退去を求めることができるよう、社宅入居誓約書に記述するとか、多様な事態を想定した規程の整備が望まれます。
三原
法人側では、年数や入居者に起こり得るさまざまな事態を想定して、社宅規程を整備しているのですね。
<次回へ続く>
可児 俊信
千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授
株式会社労務研究所 代表取締役/福利厚生専門出版社
企業や官公庁における福利厚生制度のコンサルティングを行う。福利厚生や企業年金などをテーマとした著書、寄稿、講演多数。
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