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社宅の知識

【人事・総務のための福利厚生】《連載②》社宅・寮制度と従業員との関係

【人事・総務のための福利厚生】《連載②》社宅・寮制度と従業員との関係

社宅管理のご担当者・責任者の皆さんに、福利厚生に関する情報をさまざまな角度からお届けする「人事・総務のための福利厚生」。2回目となる今回は、社宅・寮制度の福利厚生としての役割について説明します。

費用と手間のかかる社宅・寮制度

社宅・寮制度に関わる費用は、大企業では福利厚生費全体の半分に近い大きな額です。毎年大企業の福利厚生費の額を調査している日本経団連「福利厚生費調査」(2019年度)では、46.2%を占めています。
このような費用と手間がかかるにもかかわらず、社宅・寮制度を継続しているのは、福利厚生の観点からみて費用と手間を上回る重要性があるからです。

労働組合・従業員との約束

前回の連載で、従業員への持ち家支援の一環として社宅・寮制度が行われているといいました。持ち家を取得できるよう住宅ローンの頭金の準備に向けて貯蓄させる。そのためには社宅・寮の使用料を安く利用させ、その分を貯蓄に回させるということです。
都市部が住宅不足だった頃の施策が、住宅が数の上では過剰となっている現在でもなぜ継続しているのでしょうか。
それは、企業と労働組合・従業員との相互信頼の証です。企業は従業員の要望に応える。それに対して従業員が企業の期待に応えるという相互関係の維持です。今ではそれを「エンゲージメント」と呼ぶこともあります。従業員が「会社のため」に高い意欲で働いてもらわないと、企業は労働生産性が下がり利益も減ってしまいます。企業は従業員との信頼関係の維持を大切にしているからです。

若手社員への住宅費用支援

給与の少ない若手社員にとっては、勤務先からの住宅費用支援は必要です。都市部では住宅費用がかかるからです。
住宅費用支援は、社宅・寮ではなく住宅手当や家賃補助でも可能です。住宅手当等は住宅の管理を伴わないので手間がかからず企業にとって負担が少ないです。
従業員規模の大きい企業ほど、企業は若手社員を寮に入れることの効果を期待しています。
その理由はいくつかあります。一番大きな理由は、若手社員への教育効果です。集合住宅形式の寮に若手社員を一緒に入寮させることにより、職場が異なる若手社員同士が知り合い分かり合うことで、コミュニケーションが図れ、仕事においてもプラスになります。また仕事以外の同僚の姿に触れることで、学ぶものがあります。
「仕事の場以外でも会社の人といるのはイヤだ」という若手もいます。あえて寮に入らない者もいます。もし皆さんのまわりにそういう若手社員がいたら、プライベートを侵されるというデメリットを超えるメリットがあることを伝えてください。

中途採用に魅力的な住宅支援

中途採用への効果も期待できます。即戦力の中途採用は企業にとって重要です。
中途社員は大企業からの転職が多く前職でも社宅・寮を含めた住宅支援は十分だったはずです。転職者は転職によって待遇が下がることを避けます。給与水準は前職以上を希望しますし、それ以外の福利厚生についても同等以上を求めます。大企業にいるほど住宅支援のありがたみを理解しています。よって手厚く住宅支援がある方が中途採用しやすいのです。

従業員と持ち家支援の必要性

一方で、今でも持ち家の取得は従業員の最大の希望なのでしょうか?世帯主は持ち家を希望します。しかし今は男性正社員だけで企業が成り立っているわけではありません。女性、非正規社員、外国籍、高年齢者等、多様な労働力で構成されるようになっています。世帯主でないことが多い女性や非正規社員、日本で持ち家を望まない外国籍社員、すでに持ち家のある高年齢者と、持ち家支援を希望しない従業員層が多くなりました。従業員全員の希望ではありません。相対的に持ち家支援の要望は低下しているはずです。
そのとき、社宅・寮制度はどうなるか。それを廃止するのではなく、社宅使用料を引き上げて企業が費用負担を軽減した形で存続することになるでしょう。

今回は住宅支援を福利厚生の視点もまじえて説明しましたが、次回は福利厚生本来の役割についてお話しします。


可児 俊信

千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授
株式会社労務研究所 代表取締役/福利厚生専門誌『旬刊福利厚生』発行
企業や官公庁における福利厚生制度のコンサルティングを行う。福利厚生や企業年金などをテーマとした著書、寄稿、講演多数。

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