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【名作ゆかりの温泉宿】~宮崎駿少年が遊んだ庭を見守る「トトロの木」~神奈川県 鶴巻温泉 元湯陣屋

【名作ゆかりの温泉宿】~宮崎駿少年が遊んだ庭を見守る「トトロの木」~神奈川県 鶴巻温泉 元湯陣屋

新宿駅から小田急線の急行電車で約1時間。鶴巻温泉は通勤電車で行ける気軽な温泉地です。3軒の宿と1軒の日帰り温泉施設が駅近くに点在していますが、中でもとびっきり高級旅館なのが「元湯陣屋」。こちらには「トトロの木」と呼ばれるクスノキの大木がそびえています。なぜ「トトロの木」と呼ばれているのか、お話を聞いてきました。

森のような庭園の中を歩いて玄関へ。秋には紅葉も見られる。

木の香ただよう鶴巻温泉駅から徒歩数分。住宅の立ち並ぶ一角に、樹林に包まれた温泉宿「元湯陣屋」がある。駅から続く道を右へと入り、左手に曲がると陣屋の入口、ここで空気が一変する。木々の間に続く小道を歩き、10数段の石段を上がって建物入り口へと向かう。途中、右手に見えるクスノキが「トトロの木」。幹回りが4メートルはあろうかと思われる大木で、空に向かって伸びやかに枝を広げている。

庭のシンボルツリー「トトロの木」の傍らには小さなほこらが。

「トトロの木」近くに湧く源泉。飲泉もできる。

なぜ「トトロの木」なのか。ご存知の人も多いかも知れないが、陣屋を経営する宮崎家は、アニメ映画の巨匠・宮崎駿の親族である。親族の方の話によると、駿少年は、終戦後、兄とともに陣屋に身を寄せていた時期があったのだそうだ。当時、この界隈は、田んぼが広がるのどかな田舎町。宮崎兄弟は、年の近いいとこ達と一緒にこの庭で遊んでいた。

「その当時、トトロの木は今よりずっと小さくて、子ども達がよじ登っていたと聞いています」。4代目を受け継いだ社長の宮崎知子さんが話してくれた。宮崎さんは、旅館運営の効率化をはかり、週休3日を実現、赤字だった宿を黒字化した経営者として知られている。「私は、結婚して思いがけず宿を経営することになったのですが、考えてみると、陣屋は、代々女性が経営してきた宿なんですよ」。宮崎駿少年が、陣屋を訪れていた頃も、宿を切り盛りしていたのは伯母だった。宮崎作品に描かれる女性像が、凛々しく強い印象なのは、もしかすると周囲にそんな女性が多かったことも影響しているのかもしれない。

陣屋は大正7年の創業。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも登場する和田義盛の別邸跡を、三井財閥が開発して旅館をはじめ、戦時中、羽振りのよかった宮崎家が買い取った。歴史の深い場所に立つ和風旅館は、将棋の対局場としてもよく知られている。2009年、4代目が受け継ぎ、今の時代にあった新しい宿へと大きく変わっていった。

数々の将棋の対局が行われた貴賓室「松風」。

組み木細工の美しいフロント。

池の上に立っているような食事処。宿泊者は基本こちらでの食事となる。

20年以上前に一度、陣屋へ出かけたことがあったが、今回再訪して驚いた。各部屋にはすばらしい温泉風呂が付いているし、傾斜を利用した高台に貸切りの露天風呂も設けられている。すぐそこが住宅地とは思えないほど自然を巧みに取り入れ、くつろぎ感のある空間が作り出されている。お料理も芸術的な盛り付け。各地より取り寄せた旬の食材を使って丁寧にサーブしてくれる。若いスタッフさんが初々しくもてなしてくれるのも、これから多方面への展開を予定している宿ならではだろう。高級旅館らしい華やぎと和風宿の落ち着きとがうまく混ざり合っている。

丸い露天風呂がついた「若紫」の間。専用庭の眺めも楽しめる。

人気の高い和洋室「牡丹」の間の客室露天。

通常、食事処で提供される、絵画のように美しい秋の前菜「吹寄せ盛り」。

宿泊時の基本会席は前菜から水菓子まで10品。要予約で食事のみでもいただける。

一方で庭は、あまり手を入れすぎず、当時と大きくは変わっていない。宮崎駿監督はとあるインタビューで、トトロについて、「自分の子供時代に対する一種の手紙」(『風の帰る場所』)と述べている。小学4年生から暮らすこととなった東京杉並の一軒家もモデルになったと思われるし、結婚後に移り住んだ所沢の自然も、「所沢に住んでいなければ『トトロ』は生まれなかった」(『トトロの生まれたところ』)というほど作品に影響を与えている。駿少年や駿青年が過ごしてきた関東各地の風景が、この名作を生み出したことは間違いない。子どもの頃に遊んでいた陣屋の庭は、駿少年が初めてトトロに出会った場所だったのかもしれない。

めったに色紙を残さない宮崎駿監督の貴重な色紙。食事処前にさりげなく飾られている。


元湯陣屋

神奈川県秦野市鶴巻北2丁目8−24
TEL.0463-77-1300(9時~18時)
*基本、金曜~月曜夜までの週4日営業(祝日や紅葉時は営業日もあり)
【アクセス】
・小田急小田原線鶴巻温泉駅より徒歩4分
・新東名高速道路 伊勢原大山ICより12分または東名高速道路 秦野中井ICより15分
https://www.jinya-inn.com

【泉質データ】
敷地内から湧出する泉温20.6℃のナトリウム・カルシウムー塩化物冷鉱泉。加温・加水・循環・消毒あり。シャワーやカランにも温泉水を使っている。また朝食のお米は温泉水で炊いている。
【宿泊データ】
全18室でうち12室が露天風呂付き。6室が檜の内風呂付き。間取りは全室異なり、和室や離れ、貴賓室のほかベッドが置かれた和洋室も8室。客室や人数、季節により料金は異なるが1泊2食1名5万円ぐらい~。
【日帰りデータ】
昼食+入浴、夕食+入浴で利用できる。入浴込みでお弁当7700円~、懐石9900円~。食事での個室利用の場合別途5500円。入浴は本館内にある男女別の露天風呂付き内風呂。高台にある山荘露天風呂は空きがあるときのみ別途45分3300円で貸切り利用可能。食事なしの入浴のみは混雑時を除くため事前に確認を。

『となりのトトロ』

昭和30年代前半の日本を舞台にした長編アニメ映画。制作はスタジオジブリ。原作・脚本・監督は宮崎駿。空気のおいしい田舎へ引っ越してきたサツキ&メイ姉妹が、子どもにしか見えないトトロと出会い、不思議な体験をする物語。1988年、『火垂るの墓』と同時上映。ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンよりBlu-ray発売中。

温泉ライター 西村理恵

雑誌やテレビなどで温泉の魅力を発信。入湯数は国内外で1000湯以上。日本温泉地域学会常任理事、(公財)中央温泉研究所理事。「ねこ温泉 いぬ温泉」プロジェクト主宰。
https://catdogonsen.com

※価格には、消費税、入湯税が含まれています。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、お出かけの際は各自治体などの最新情報をご確認ください。

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