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【名作ゆかりの温泉宿】~「すずめの戸締まり」の舞台? 物語がはじまる温泉を訪ねてきました~大分県由布市湯平温泉 大吉旅館

【名作ゆかりの温泉宿】~「すずめの戸締まり」の舞台? 物語がはじまる温泉を訪ねてきました~大分県由布市湯平温泉 大吉旅館

映画「すずめの戸締まり」のはじまりは九州。廃墟になった温泉街で、奇妙な扉に出遭いストーリーが進んでいきます。この温泉街はどこなのか…? ネット上でも取り沙汰されていますが、そのうちの一つが大分の湯平温泉。石畳が続く温泉街へ出かけてきました。

「すずめの戸締まり」を初めて見たとき、「あれ、この温泉街はどこかで見たような…?」と感じたのを覚えている。新海誠監督のインタビューを読むと、「九州や四国の町はすべて架空のもの」であると書かれている。けれども、すずめが温泉街を歩いているシーンは、赤い提灯や宿の看板、石畳など「これは、大分の湯平温泉では?」と思えてしまうのだ。

実際、同じように感じた人もいたようで、「もしかしたら舞台では?」との問い合わせがあったり、写真を撮りにくる観光客もちらほらいるのだそうだ。

手前に「大吉旅館」、奥に「つるや隠宅」、大吉の道向かいにある
現役の美容室も作品に映し出された家屋にそっくりだ

温泉街のあるシーンには宿の看板が2つ映っている。「つるや」と「大吉庵」だ。どちらも湯平に実際にある(あった)宿名によく似ている。特に「大吉庵」という温泉宿の名は、あまり耳にしたことがない。湯平で営業をしているのは「大吉旅館」だが、廃墟になったという設定では失礼になるから、ちょっとだけ変えて宿名としたとは考えられないだろうか? 

ということで、大分県湯平温泉へ。関東からは新幹線と特急を乗り継いで片道約7時間。有名な由布院から駅2つ大分市寄りにあるJR久大線「湯平駅」が最寄り駅。ここから宿に送迎を頼むか、あるいは50分ほど歩いて行く。山あいにある静かな温泉地だ。

右手にピアノ、奥にお雛様が飾られた小さな玄関、常連さんが多い宿

大吉旅館は、親切な女将さんと物静かな息子さんとで切り盛りしている小さな宿。明治時代の創業で、以前は「紀ノ國屋」という宿名だったが、祖父・吉郎の名前にちなみ、「大吉旅館」に改名。女将さんの話によると、「以前は別府にも大吉という名の宿があったと聞いたことがある」そうだ。

手作りの良さが味わえるおいしい夕食
朝夕とも食事処で
抹茶塩でいただくアツアツの天ぷら
頃合いを見て揚げてくれる

ここは料理がしみじみとおいしい。湯平温泉は元々、長期滞在をする人が多い湯治場だったため、専任の板前を雇っている宿は少なく、家族で食事を作っている宿がほとんど。大吉旅館もその一軒。ナスの田楽や野菜たっぷりのカルパッチョなど、丁寧に調理された食べやすい品々でもてなしてくれる。天ぷらやヤマメの塩焼きは後から熱々を出してくれるのも嬉しい。

取材時に宿泊した和洋の客室
広くて清潔、居心地のいい部屋

料金もお手頃だし、自動感応式のお手洗いもついており、客室も清潔で広々としていて言うことなし。ただし温泉浴室が1ヶ所だけで、貸切り利用となるため、場合によっては待つことがある。以前はすぐ近くに共同湯があったのでそちらを利用すれば良かったが、現在、一般客は入浴できない。

大吉旅館の内風呂、空いていればいつでも貸切りで入れる
家族連れにもちょうど良いサイズ

湯平は2020年、2022年と2度の水害にみまわれ、共同湯の一部の源泉が流されてしまった。昨年までは全ての共同湯が閉鎖されていたが、現在は地元住民に限り入浴可能な共同湯も出てきた。少しずつ復興しているけれども、今もその途上で、各所で道路や河川工事が行われている。

大吉旅館のすぐ近くにある「銀の湯」は、現在、地元住民だけの利用に
花合野川は、現在、河川工事中、少しずつ復旧がすすんでいる
渋い石段が各所に! 石段好きはぜひ
寅さん映画で有名になった赤いポスト

2020年7月の水害は特にひどいもので、大吉旅館のご近所にあった旅館「つるや隠宅」は、廃業することになってしまった。この時の水害はニュースでも大きく取り上げられた。「ずすめの戸締まり」の製作時期とも重なっており、もしかするとスタッフの誰かがこうした状況を知っていたとは考えられないだろうか。

新海誠監督は、この作品について、「ある日、大切な場所が失われてしまうこともある。そうした場所を悼む」「お礼を言いながらお別れをする」物語であると話している。そう考えると作品に残る「つるや」の看板も、違ったものに見えてくる。

かつて50軒近い宿が軒を連ねていた湯平の温泉街も、現在は15~6軒。特にメインの石畳沿いにある宿は「大吉旅館」を含めてわずか数軒になってしまった。寂しいけれども、そこから新しい何かが生まれてくることもきっとあるはずだ。この3月、「つるや隠宅」の建物は、案内所を兼ねた観光拠点としてオープンする。この先、共同湯が復活し、石畳通りににぎわいが戻ってくる日がやってくることを願っている。

大吉旅館の客室から見た石畳通り
夜は本当に静かだ

ところで猫神様のダイジンがよみがえる有名なシーン、その舞台に似ていると噂になっているのが、湯平温泉から北西へ車で40分、湯平駅からJR久大線50〜70分の豊後森駅近くにある「旧豊後森機関庫」だ。こちらにも足を伸ばして来た。

昨年、扉と椅子が置かれ、ファンにはたまらない場所に!
取材時、香港や台湾、韓国からのファンが訪れていた

昭和9年に建てられた機関庫は、蒸気機関車が運行を終えた昭和45年に現役を引退、その後、廃墟となってしまった。が、ここにきて多くのファンが訪れる「聖地」になりつつある。昨年6月には、地元・玖珠美山高校の美術部員らにより扉が設置され、その後、とある外国人ファンが、三本足のイスを寄贈。多くの写真がネットにあがり、ファンがファンを呼んでいる。

機関庫から徒歩すぐの場所にある「豊後森機関庫ミュージアム」
デザインは、列車好きにはよく知られている水戸岡鋭治氏
館内ではこんなプラバン作りの体験もできる、家族で行くと楽しそう

取材をしていると地元の人が面白い話を聞かせてくれた。映画が公開される数ヶ月前、「すずめの戸締まりの舞台を訪ねることができて良かった」と話す男性がやって来たのだそうだ。作品の関係者だったのだろうか‥?

廃墟や廃屋から、いつか何かが生まれてくることもある。「すずめの戸締まり」は、そんな希望を伝えてくれる物語でもある。

大吉旅館

大分県由布市湯布院町湯平347−3
TEL.0977-86−2414

【アクセス】
・JR久大本線湯平駅より送迎あり(事前に連絡を)または徒歩50分
・大分空港より空港バス55分で由布院駅、ここからレンタカーまたはタクシー20分(約14㎞)
・大分自動車道湯湯布院ICより約12㎞

寅さん映画でも知られている湯平駅
ホームには記念の待合室も

【泉質データ】
ナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉。透明でほのかに温泉の匂いがある。中性で肌によくなじみ、浴後あたたまる温泉。大吉旅館では令和新源泉より温泉を引いており、かけ流しの温泉に入れる。入浴時間はチェックイン〜22時、朝は6時〜9時。

【宿泊データ】
1泊2食1万1700円〜(消費税・入湯税込み)。客室や人数、曜日などにより若干料金が異なる。全室にトイレ・洗面所付き。現在は4室のみを使っており、うち3室はベットの客室。家族経営なので食事なども臨機応変に対応してくれるが、部屋数が少ないこともあり、早めに予約や確認をした方が良さそうだ。

【日帰りデータ】
入浴や食事のみはない。

お茶請けは柚子の入った地元菓子店のお煎餅
朝食には地元豆腐店の名物・ピーナッツ豆腐
湯平の味を楽しめる宿でもある
旧豊後森機関庫

大分県玖珠郡玖珠町岩室36-15
TEL.0973−72−1313(玖珠町観光協会)
【アクセス】
・JR久大本線豊後森駅より徒歩4分
・大分自動車道玖珠ICより1.7㎞
https://kusumachi.jp/pg1368.html

大正時代に建造されたSLも展示
3月〜11月の日曜にはミニ列車も運行され子どもたちに人気
映画『すずめの戸締まり』

2022年11月11日に公開されたアニメ映画。『君の名は。』『天気の子』で知られる新海誠監督による作品で、17歳の高校生すずめが「閉じ師」の青年と一緒に九州から岩手まで旅をし成長していく姿を描いたロードムービー。廃墟や災害をテーマにしてはいるが、見終わったあとは温かい希望に満ちた気持ちになる。国内のみならず世界約200カ国・地域で上映され、特にアジアでの人気が高い。

温泉ライター 西村理恵

雑誌やテレビなどで温泉の魅力を発信。入湯数は国内外で1000湯以上。日本温泉地域学会常任理事、(公財)中央温泉研究所理事。「ねこ温泉 いぬ温泉」プロジェクト主宰。
https://catdogonsen.com

※価格には、消費税、入湯税が含まれています。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、お出かけの際は各自治体などの最新情報をご確認ください。

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