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【暮らしに役立つ心理学】失敗した人を叱りたくなったときの心理学

【暮らしに役立つ心理学】失敗した人を叱りたくなったときの心理学

新年度を迎え、職場に新しいメンバーを迎えた人もいるのでは?
特に新人や後輩にはいろいろと指導をするシーンも出てくると思いますが、なかなか気を遣うことでもありますよね。

近ごろは「私、褒められて伸びるタイプです!」なんていう若い人もいますが、一方で「いや、新人のうちは、きちんと叱ることが大切だ」と厳しく接する先輩や上司も結構いるかもしれません。
読者のみなさんは、褒めるのと、叱るのとでは、どちらが効果的だと思いますか?

ノーベル賞を受賞した心理学者で行動経済学者のカーネマンの興味深いエピソードを紹介します。
あるときカーネマンは、パイロットを養成する教官に、訓練効果を向上させるために心理学の指導をしたといいます。
カーネマンは教官たちに、「失敗を叱るより、能力向上を褒めるほうが効果的だ」と述べ、実際にハトやネズミ、ヒトなど多くの動物実験で確かめられていると説明しました。

しかし教官の一人は、それはあくまでハトの場合だと反発したのです。
教官は「訓練生が曲芸飛行をうまくできたときに褒めてやると、次はたいてい前ほどうまくこなせない。一方、失敗したときにどなりつけると、次はたいてい前よりうまくできる。褒めるのはよくて叱るのはだめだ、というのとは正反対だ」といいました。

カーネマンはこの反論に対し、「教官は正しいが、完全に間違っていた」と述べています。さて、どういうことでしょうか?




カーネマンは、教官の持論について、「平均への回帰」という統計学でよく知られる現象をもとに解説しています。たまたまうまくいったとしても、次はその人の平均的なパフォーマンスに近づく可能性が高く、たまたまひどい失敗をしたときも、次はマシな結果になる。つまり褒めようが叱ろうが、突出した結果のあとはそれより平均的な結果に近づきやすくなるため、教官の言葉の前半は正しいのですが、後半の「褒めると下手になり叱るとうまくなる」という主張は的外れだということす。

話をわかりやすくするために、初めてダーツに挑戦する人をイメージしてください。運よく的の中心に近いところに当たったとしても、次に投げるときはそううまくいかない可能性が高いことは、誰もが想像がつくでしょう。褒めても叱っても、本来のパフォーマンスに近づけば、前回よりも結果が悪くなるのです。

カーネマンは訓練教官が「叱るのがよいのだ」と考えてしまったことについて、不幸な偶然の罠だと表現しています。ビジネスシーンに置き換えても、短期的な営業成績のような運に左右される結果については、このような罠にはまりやすくなるでしょう。能力が向上したことを褒めるのは大いに結構ですが、不本意な結果や失敗について叱りたくなったときは、このエピソードを思い出してみてください。

illustration:タダトモミ

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